石黒 茂[作業療法学専攻]
3月中旬に、所用があって奈良へ車で出かけた。帰る途中、道路の表示板に「月ヶ瀬」の文字が目に入った。「月ヶ瀬の梅が見たい」と妻が言うので、急きょ自動車道を下りた。 月ヶ瀬の梅園に行くのは、およそ20年ぶりだろうか。私にとって、春の花と言えば桜である。桜の季節はあっちこっちの桜の名木を見て回るが、梅の花にはあまり興味がなかった。 月ヶ瀬へ行くと、新型コロナウイルス感染防止のため「梅まつりのイベントは中止」と看板が出ていた。盛りは少し過ぎているが、花はまだ咲いているようだ。空きの多い駐車場に車を入れ、梅園へ向かった。傾斜のきつい山道を登っていくと、道路沿いの土産物屋はどこも人気(ひとけ)がない。それでも梅園まで行くと、多くはないが花見客がいた。先回来たときは、梅園も客で混雑していたが、今度は梅の花を間近からゆっくり眺められる。 梅園を散策していると、妻が梅の香りがすると言うので、梅の木に近づいてみた。確かにいい香りがする。これが古の人が好んだ梅の香りなんだ。何度も、梅の花を見てきたがにおいを感じた(認識した)のは初めてのような気がする。このご時世にこんなことを言うのは不謹慎ではあるが、人気(ひとけ)のない中で、梅の花を見られたお陰で新しい体験ができ、梅の香にも愛着が湧きはじめた。月ヶ瀬の梅を満喫していると、繁みの中からウグイスのさえずりまで聞こえてきた。まるで、花札の世界のように。 4月になって、桜が枝一面に咲いているが、人気(ひとけ)のない中での花見は寂しい。桜や梅の花を愛でるには、人が大勢いた方がよい。新年度恒例の入学式も新型コロナウイルス感染防止のため、全国的に中止されたり縮小されたりしている。学校には桜の古木が多い。満開の桜の下にフレッシュな新入生や保護者があふれるのを見られないのは残念だ。 「新型コロナウイルス退散!!」早くこの事態が治まってほしいと願うばかりである。
教員リレーコラム