教員リレーコラム
「トーチキスに、オリピック・パラリンピックを憂う」
石黒 茂 [作業療法学専攻]
新型コロナウイルスの感染が拡大し、緊急事態宣言が発令されてから、もう1年が経つ。昨年の今頃は、1年過ぎれば治療法が確立され、ワクチンも行きわたり、感染は収まるものと勝手に期待していたが、そうはならなかった。7月からのオリンピックを前に、とうとう第4波が到来してしまったようだ。
思い返せば、昨年2月下旬に小・中・高校の一斉休校が突如発表され、テレワークの推進、飲食店などの時短営業など、感染拡大を回避するための様々な行動制限がとられた。新型コロナウイルスへの過剰すぎるくらいの警戒心から、多くの人たちは家に閉じこもり、道路を走る車は減少し、駅も電車内も閑散としていた。それが今、3度目の緊急事態宣言が発令されそうであるにも関わらず、人々に当時の緊張感はない。今度は感染力の強い変異種まで現れているのに。明らかに警戒心不足だ。国民が長期間の自粛に疲れ、慣れてしまったからだとテレビのコメンテーターたちは言っているが、果たしてそれだけだろうか。
この春、第4波の到来が心配され始めていた頃、オリンピックの聖火リレーが始まった。懸念する声も結局はかき消され、テレビのニュース番組では、あおるように聖火リレーについて盛んに取り上げていた。
トーチキスと言うそうだが、聖火の受け渡し場面を見て、思わず唖然とした。ランナーたちが思い思いのポーズをとって記念写真を撮っている。これは、大会組織委員会が推奨したことであり、「トーチキスポーズは、18年平昌五輪の際も流行した。沿道の方を含め、お隣同士で顔を見合わせ、話をするきっかけにもなる」などと説明している(東京スポーツ2019年12月17日)。2019年12月の時点とは違い、感染拡大が懸念される状況では、マスクも無しにこうした行動をとる(あくまでも私の知る限りである)のは不適切であろう。ましてや沿道に集まった人たちは密になっている。そして、こんな場面をニュースで繰り返し見せつけられては、国民が感染拡大への警戒心を無くしていくのは当然である。東京オリンピック・パラリンピックを安全・安心に開催させるためには、明らかにミスリードだ。組織委員会等でまともな判断、決定がなされた結果なのだろうかと不思議に思う。
東京オリンピック・パラリンピックはもう約3か月後に迫っている。コロナウイルス感染拡大を早く収め、司令塔となるべき人がリーダーシップを発揮し、この大会が無事開催され、世界の人々の記憶に残る大会になってくれることを祈るばかりである。