教員リレーコラム
認知症にみえて、実は治療できる特発性正常圧水頭症-高齢者で要注意
杉山 成司 [理学療法学専攻]
「認知症」の話題は連日取り上げられていますが、認知症の治療薬が症状の改善につながるのか、あるいは進行を遅らせる効果があるのか、残念ながら現在も一定の結論は得られていません。中には、治療薬が原因で逆に症状が悪化してしまう危険性も指摘されています。もちろん、サプリメント効果も判然としません。昨年、フランスでは「医療上の利益が不十分」として認知症の薬が保険適応外になってしまい、大きなニュースとなりました。
では、「認知症」の診断についてはどうでしょう。代表的なものは高齢者のアルツハイマー型認知症で、徐々に脳神経細胞が変性・減少していきます。前述の治療薬もこの疾患を対象にしたものが多く、根本的な治療は難しいとされています。問題は、十分な治療法があったり予防できる疾患が見過ごされ、単に「認知症」と診断されていないか、確認することです。頭部の打撲後におこる慢性硬膜下血腫(手術で改善)や甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン療法で改善)などは、多くはありませんが忘れてならないものです。そして、今回テーマの「特発性正常圧水頭症」。馴染みがないかも知れませんが、認知症に似るも、治療によって著明に症状が改善する疾患なのでご紹介します。
脳は池の中に浮かぶ組織に例えられますが、この池の透明な水を髄液(ずいえき)と呼び、脳を外部の衝撃から保護したり、脳代謝の不要物を除去したりする役目があります。髄液は脳中心部の空洞(脳室)で産生されてから脳表面を覆い、最終的に血液(静脈)に吸収される大きな循環系をなします。特発性正常圧水頭症ではこの髄液循環系に障害が及び、髄液が過剰に溜まって明らかな脳室の拡大をみます。そこで、この余剰な髄液を排除することが治療の原則となります。
認知症に似ている本疾患、症状には大きな特徴が3つあります。1)認知障害、2)歩行障害、3)尿失禁、です。まず認知障害では、注意が散漫になって物忘れが多くなり、自発性が低下して思考や行動面が遅くなる、一日中ボーッとしているなど、精神運動面の低下がおこります。ただ、アルツハイマー型より程度は軽いともいわれます。歩行障害は、この疾患の初発症状として重要です。よちよち歩きなど歩幅の減少、すり足歩行などの足の拳上低下、足が開き気味で歩く開脚歩行などを呈し、転倒しやすくなります。3つ目の尿失禁では、頻尿、我慢ができなくなる尿意切迫などがおこります。3つの中で最も遅くにでてくる症状です。いずれにしても高齢者にとっては珍しくないものばかり。疑った場合は、頭部CTやMRIなどの画像検査が必要です。主治医とよくご相談ください。