教員リレーコラム
「 Study Nature, but not TV 」
石黒 茂 [作業療法学専攻]
先日、テレビでイギリスの自然を扱ったドキュメンタリー番組を放映していた。舞台はイギリス東部の田園地帯。メンフクロウとチョウゲンボウが生態的地位を巡って激しい争いを繰り広げていた。メンフクロウは夜、音を頼りにネズミなどの小動物を捕食する。一方、小型のハヤブサ類のチョウゲンボウは昼間に狩りをする。この2種は共に食物連鎖の頂点に立ち、よく似た生活様式をもつが、活動時間が違い、すみわけによって共存していた。しかし、森が畑に変わり小動物が減り、エサを捕るための時間が増え、活動時間が重なってきた。さらに、周辺の巣穴となる老木も減り、エサとすみかの奪い合いで競争が激しくなったらしい。
経済が拡大している間はよいが、少子化や貿易戦争などで経済が縮小し出すと、企業は利益を求め、新たな事業に手を出そうとする。そして、薬や食料品の販売のように境目が不明確になり、企業間の競争が激しくなる。イギリスの田園地帯の自然も人間の世界と同じで大変だと思いながら、テレビを見ていると、途中から入ってきた妻が「あっ、メンフクロウだ」と呟いた。よくそんなイギリスの鳥の名前まで知っているものだと感心して聞いてみると、メンフクロウはハリーポッターの作品に登場するそうだ。映画好きの妻はその映画も熟知しているので知っているらしい。そういえば、この番組に出てきた田園地帯に住む野生のウサギはピーターラビットの本の挿絵そっくりだった。いや、ピーターラビットの本の挿絵がイギリスの野生のウサギそのものだったと言うべきかもしれない。単なる想像で描いたのではなく、実物に忠実であることには驚く。ピーターラビットもハリーポッターもイギリスの生き物のことまで知らないと、真の理解につながらないのだろうと思った。
「 Study Nature, but not Books. 」
昔は、生物の授業でよく使った言葉である。月日が経ち忘れかけていた動物学者アガシーの言葉が急に蘇った。しかし、今でも生物教育に携わる者が、自然の生き物でなくテレビの映像を見て、この言葉を思い出すとはなんと情けない。