教員リレーコラム
「河村市長の合理的配慮」
髙田 政夫 [作業療法学専攻]
短大のある清須市には清洲城がある。大手橋から眺めた清洲城天守は大変立派で清須市のシンボルとなっている。この清洲城はじめ愛知県には戦国からの城(犬山城)があったり戦後再建されたりと大変城が多い。
「尾張名古屋は城で持つ」の例え通り清須市の隣、名古屋市にある名古屋城はこの地域では最も規模が大きい。清洲城と同じく名古屋市のシンボルとなっている。なんでも江戸時代の城としてはこの時代に存在した天守で名古屋城天守が最も高かったそうである。それ故、『尾張名古屋は城で持つ』の例えが残ったのであろう。残念なことに木造天守は1945年の空襲で焼失した。現在の天守は鉄骨鉄筋コンクリート造りで最上階ではなく途中の5階までエレベーターで昇ることのできるバリアフリー化がなされている。これを木造天守として再建するという。再建するための図面がこれほど現存するものは無いためだ。再建されれば大変貴重なものとなるのは予測がつく。
その名古屋城木造再建について障害者団体が訴えている。是非とも最上階までエレベーターを設置しバリアフリー化をしてほしいと。河村市長は残存する図面に忠実な再建を目指しており、エレベーターを設置しない方針を決めた。
河村市長と障害者団体との話し合いが持たれ、河村市長はあくまでもバリアフリー化は新技術をもってするとのことである。新技術とは、巨大ドローンで吊り上げたり、ロボットを開発し障害者をお姫様抱っこしたりして運ぶという。障害者側は、自分たちは特別の配慮ではなくみんなと同じ方法で家族と共に最上階へ上がりその感動を共有したい。それにはエレベーターが一番だと。河村市長は木造天守閣再建で市長に再選されただけに両者の意見は平行線をたどっている。更に市長は、開発される最新技術は世界に誇れるものとなると勢いづいている。
私が関わっているSMA(脊髄性筋萎縮症)のお子さんたちは全身の筋が難病に侵され、呼吸も自力ではできないためストレッチャーに横たわっている。そのストレッチャーには呼吸器をはじめ生活のために必要な吸引などの機器類とこれらを動かす動力となるバッテリーも搭載されている状態である。呼吸器とバッテリーと共に運ばなくてはならず、到底ロボットにお姫様抱っこをされる状況ではない。果たしてこの子らを最上階に上げる方法はいかにと思案してもなかなか良いアイデアはない。
障害者は目立ったものでなく普通にみんなと共に動きたいのである。特別に大掛かりに作られ取り付けられても、特別に抱っこして運ばれても、特別扱いでとても目立つものとなる。さらには事前の準備や手続きも必要になるなら障害者は使用しない。参加をあきらめるのみである。このため設置しても使われず消えていったものがごまんと存在する。
SMAの就学前のお子さんや学齢期のお子さんには是非ともに最上階に上りその感動を家族と共に分かち合っていただきたいものである。両者を満足する合理的な配慮に基づくアイデアが医療福祉工学者・作業療法士に求められている。