杉山 成司[理学療法学専攻]
生まれて数ヶ月間は赤ちゃんにいろんな湿疹や皮膚炎ができるのは誰もが気になるところ。特に離乳開始の5,6ヶ月頃は人生初めていろんな食べ物を口にするようになり、湿疹がでると食物アレルギーを心配する時期です。 この食物アレルギー、食物が関係した(と思われる)症状を経験した方は1~2割で増加傾向にあり、その内の約3分の2は医療機関で「食物アレルギー」と診断されています。しかし、症状を経験しながら受診しなかった方も1割以上で、母親や家族、友人に相談、あるいはネットや育児雑誌などを参考にされるようです。 実際に食物アレルギーの原因(と思われる)の制限や除去を、医師の指示で行った方と医師以外で行った方はおよそ半々、特に食事制限などの治療を中止する際、約6割が医師の指示ではなく自己判断によっているようです。ただ、自己判断での対応には不適切な場合もあり得ます。というのも、食物アレルギーの発症予防や治療法など、以前言われていたことが変わった点も多いのです。そこでいま一度、近年の主な知見をご紹介します。 ・妊娠中や授乳中、母親の食物制限・除去について:以前は母親が摂取した食物が原因と考えられ、予防のため母親への食物除去が指導されてお母さん方が大変苦労された時期があります。その後、この食物除去は子どもへの食物アレルギーやアトピー性皮膚炎の発症予防には効果がなく、却って母親と児に有害な栄養障害をきたす恐れがあり、最近は推奨されていません。 ・(完全)母乳栄養:母乳には多くの利点があるのはもちろんですが、アレルギー疾患の発症予防という点では、完全母乳栄養が優れているという証拠は得られていません。 ・育児用ミルクの加水分解乳:タンパク質を加水分解して低分子化することで、アレルギーを起こすアレルゲンの抗原性を低下させる目的で開発されました。しかし、現段階では加水分解乳によるアレルギー発症の予防効果は認められていません。 ・離乳食の開始時期:食物アレルギーの発症を心配して離乳食の開始を遅らせても、予防効果は確認されていません。生後5~6ヶ月頃が適当とされています。 ・乳幼期早期からの保湿スキンケア:生後早期から保湿剤によるスキンケアでアトピー性皮膚炎を30~50%予防できることが報告されています。ただ、食物アレルギーの予防効果については見出されていません。 食物アレルギーに関する知識は日進月歩で、自己判断での決定・対応は時には重症化を招く危険性さえあります。後悔しないためにも、軽症と思われる場合でも医療機関と相談しながら進めて行くことが、結果的に児に対する負担軽減にもつながるのではないでしょうか。
教員リレーコラム