教員リレーコラム

見逃されることのある成人の百日咳・・・小さい子どもにうつす前に発見を

杉山 成司[理学療法学専攻]

百日咳、名前をご存じの方も多いでしょう。名の売れているこの病気、決して過去の病気ではなく現在も多数の患者さんがみえ、しかも小さなお子さんに感染すると重症化し場合によっては命を落としかねない危険性の高い病気であることは、思ったほど認識されていないかも知れません。そこで、今回はこの百日咳を取り上げ、なぜ成人での早期発見が大切なのか、理解を深めていただければと思います。 百日咳の予防には、百日咳ワクチン(4種あるいは3種混合)が乳幼児期に定期接種され、高い有効性が証明されています。その一方で、重症化しやすい生後6ヶ月未満の赤ちゃんでの発生数はほぼ横ばいのまま。ちょっと分かりにくい話しですが、これは、接種しても年齢が上がるにつれてその免疫効果は落ち、抵抗力の少なくなった成人が百日咳にかかって感染源へとつながるからです。0歳児への感染は子ども周囲からが多く、3分の1は母親からとのデータもあります。 百日咳は、百日咳菌という細菌がカゼ同様に気道に感染して起こります。幸いに、効果的なマクロライド系の抗生物質を病初期段階から飲めば症状の改善は早く、しかも排菌も阻止されて他人への感染も防ぐことができます(ここがポイント!)。 百日咳の症状は、名前が示す如く”長く続く咳(せき)”ですが、子ども、特に1歳前の乳児と成人では大きく異なります。子どもでは咳が特徴的で、急にコン、コン、コンと立て続けに起こる発作的な咳と、咳の後に続くヒューという呼吸音(吸うときの音)がみられます。まとめると”コン、コン、コン、コン、ヒュー”、こんな感じで苦しみます。重篤な場合は呼吸ができないまでになり、救急処置を要します。ところが、成人では子どものような特有の厳しい咳は少なく、”軽い咳がある”程度で経過し、効果的な薬も処方されずにやや長引く風邪として放置される可能性があります。当然この間、ほかの人に感染することになります。 では、一体どのような症状の時に成人の百日咳を疑い、受診すべきなのでしょう? 小児呼吸器感染診療ガイドラインの百日咳診断基準(2017)改訂版によれば、1歳以上の患者(成人を含む)では、”1週間以上”の咳を有し、かつ(前述した子どもに見られる)特徴的な咳、あるいは症状を1つ以上呈した症例を挙げています。確かに日常的には1週間以上続く咳は多いと思います。しかし、百日咳をはじめ人に感染する疾患など、見逃してはならない病態が色々含まれています。”1週間以上経っても治まりそうにない咳”は、手遅れにならない前の受診をお勧めします。
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